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2006年07月24日
しつけを始める前に理解しておくべき原則
1.しつけは犬にとって特別なことではない
犬は本来「群棲(群れをつくって生活する)動物」ですから、群れのル-ルを身につけることが自然です。
群れのル-ルを守れない個体は群れからはじきだされ、1匹で生きていかなくてはなりません。
群棲動物にとって所属する群れを失うことは、生命の危険を意味します。
ですから、子犬や地位の低い犬は周囲の目上の犬に厳しく(おそらく一般の飼い主さんたちが想像されるよりもはるかに厳しく)ル-ルを教え込まれるのです。
現代の飼い犬たちは人間と「群れ」をつくっていますから、群れのル-ルであるしつけを覚えることは自然な、全く無理のないことです。
逆に、群れ(=人間の家族)の一員として生活していながら、その群れのル-ルを教えてもらえないという状況は、犬にとって本来ありえない、異常事態です。「犬をしつけるのはかわいそう。自然のままに育ててやりたい」というのは本来の犬の「自然」を知らない人の勝手な思い込みで、完全な誤りです。
また、ここでいうしつけとは日常生活に必要な基本的ル-ルを教育することで、盲導犬や警察犬を目指した高等訓練を行うわけではありません。
特別なことではないのです。
2.しつけを怠るとどうなるのか
犬は群れの中で明確な順位付けを要求します。犬が複数いれば必ず上下関係が発生するのです。全く対等・平等の「友人関係」は存在しません。
これは犬が群棲で、しかも高度な社会を群れの中で形成する性質に起因します。ただ単に個体が集合しているわけではなく、群れの中での社会的役割をそれぞれが分担していますから、統率や秩序を守るためにも厳密な上下関係が必要となります。
しつけを怠るということは犬の好き勝手な行動を認めるということであり、自分(犬)を統率する者がいなければ、犬自身がその群れ=家庭におけるボス犬であると錯覚するのです。
家庭犬における多くの問題行動は、犬がボス犬(「アルファ」と呼ばれます)であると錯覚している「権勢症候群」(またはアルファ・シンドロ-ム)に原因があるといわれています。
アルファの権力は絶対であり、逆らう者は罰を受けなければなりません。
飼い犬に噛まれて負傷する事例を耳にすることがありますが、これは典型的な「アルファからの罰」なのです。
飼い主が犬のためを思って行ったことでも、犬(すなわちアルファ)にとって気に入らなければ、飼い主は噛まれて当然なのです。
この場合、犬は正当な罰を与えたと感じているはずです。
そしてその責任はそのように育ててしまった飼い主自身にあるのです。
3.犬と人との共通点・相違点を正しく認識する
犬と人は異なる生物ですから、多くの共通点がある一方で、多くの相違点もあります.
したがって、共通点については人間と同様に扱い、相違点については人間と明確に区別して対応しなければならないのは当然です.
ほとんどの失敗が、この両者を混同してしまい、適切な指導ができないことに起因します.
人間が愛情だと思い込んでいる行為が犬には害や不快であったり、犬の感情表現が人間には理解しづらかったりすることがあります.
また、犬に限らず動物については事実に反する迷信やうわさ、思いこみなどにより、誤った知識が普及していることが少なくありません。
以下に犬と人間の類似点・相違点について代表的な例をご紹介しましょう。
類似点
・犬の精神構造は人間と良く似ている。
そのために犬はただ単に飼育されているのではなく、人間社会の一員として無理なく入り込める。
喜怒哀楽をはじめ、様々な基本的精神活動の多くが人間と共通である。
・食欲、睡眠、性欲、所有欲、出世欲なども同様である。
ほとんどの場合、犬は世間体などを価値として認めないので、欲望は人間のようには隠さない。
・犬も人も同じ哺乳類という生物である以上、病気も同様であるが、動物種に特異的な疾病は当然異
なる。
・その他
相違点
・適切な食事(接種すべき栄養バランス)は犬と人間とでは明らかに異なる。
20~30年前は日本の飼い犬の平均寿命は現在よりも圧倒的に短かった。これは伝染病やフィラリアの予防等、獣医学的知識が未だ一般に普及していなかったことが大きな要因であるが、不適切な食事が多かったことも一因である。
人間の食事は犬には味付け・栄養バランスが不適。
犬が人間の食事の濃い味を覚えると、本来の適切な食事は刺激が少なくて好まなくなる。
犬が好む食事が健康に良いとは限らない。(例えば幼児の大好物がチョコレ-トだからといって、三度の食事にチョコレ-トばかりを与えるわけにはいかないでしょう?)
人間と同様の食事を続けると、塩分過多、カロリ-過多等になり、「成人病(生活習慣病)」になりやすい。
・一部の犬種を除き、多くの犬が暑さに弱く、寒さに強い。
「桜が咲く時期は、犬にとってはもう暑い」と覚えておくと良い。
・犬はほとんど汗をかかない。
1.汗をかかないから、体温調節(熱くなった体を冷却する)は呼吸に頼らざるを得ない。
呼吸で冷却しなければならない「ゼイ肉」が多ければ、呼吸が苦しいのは当然。
わずかな肥満が呼吸器や心臓に与える負担は大きい。
2.汗をかかないから、汗による身体の汚れも無い。
したがって、汗をかく人間の真似をして毎日入浴する必要は無い。
標準的な肌の犬は2週間に1回より多く洗うべきではない。
洗いすぎると
①カサカサの乾燥肌
②乾燥肌を補うための皮脂(皮膚のアブラ)の過剰分泌によるベトベト肌や体臭
悪化 [つまり、洗いすぎると体臭が強くなることがある!]
等の異常が生じる。
・犬は骨格や筋肉の発達が人間とは異なる。
・現代の犬の平均的寿命は13~15年程度。場合によっては20年以上生きることもある。(ただし、犬種によって差があります。)
犬は人間の約5倍のスピ-ドで生きていることになる。
ただし、犬の寿命が人間よりはるかに短いからといって、「どうせ短い一生なのだから、しつけが不充分だったり、病気になってもかまわないじゃないか」というのは、犬のことを考えない人間の身勝手な意見である。
犬は与えられた寿命の間、懸命に生きているのである。ところがその生活の質を左右するのは犬自身ではなく、飼い主である人間なのである。
あなたが犬の立場であったなら、あなたの生命や生活の質を軽視する飼い主は「良い主人」だろうか?
犬の寿命は人間よりも短いが、犬にとっては大切な1度きりの「人生」ならぬ「犬生」なのである。
・その他
投稿者 jasperah : 2006年07月24日 23:17